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2020-04

Student Apathy(無気力症候群)

クリスマスの一日、皆さまはどのようにお過ごしになられましたでしょうか?
 クリスマスイブの街も華やかでしたが、イルミネーションも一時に比べて少なくなり、人出もやや少なく落ち着いた様子に変わってきたように感じます。
 今年は、クリスマス前には春のようなポカポカ陽気で、ケーキ屋さんは大変だったようです。この季節、例年ですと用意したクリスマスケーキを部屋の中において自然の寒さに任せて保管しているそうですが、今年の気温ではそうはいかず、かといって冷蔵庫に入る訳でもなく、急遽保冷車の手配に大わらわといったお店もあったようです。

 さて、今回は、スチューデント・アパシー/無気力症候群をテーマに取り上げてみたいと思います。一般には「甘え」と誤解されることも多いのですが、叱咤激励するだけでは脱出できない所が単に「甘え」で解決できないところがあります。
 その本質は、「目標を失った」「自分が何をやりたいのか解らなくなった」といった自立できていない自尊心の低さにあります。薬物療法には有効なものはなく、カウンセリング・コーチングによる対応が必要になってきます。
 スチューデント・アパシーを「大辞泉」で引いてみると、「学生無気力症。学生が勉学などに関して無気力になり、非生産的な生活をすること。→五月病 (ごがつびょう) 」と書かれているように、若い男性・学生に多い疾患概念でした。本人が困っていることが少ないので、「病気」と呼んでよいかどうかは問題ですが。最近、学生だけではなく、社会にでてからも「自分がやりたいことがない」「仕事にやりがいや価値を感じられない」社会人に増えてきているように感じており、ここで話題に挙げてみることにしてみました。

# Student apathyとは?
 学業・就職への意欲や活動性を失って、持続的に無気力・無関心・無感情の心理状態に陥る大学生の『スチューデント・アパシー(アパシー・シンドローム)』の問題を初めて概念化したのはハーバード大学の臨床心理学者P.A.ウォルターズでした。我が国だけではなかったのですね。我が国では、1960年代、笠原 嘉先生が大学の長期留年者の中に特有の無気力状態を呈する青年が数多くいることに気付き解析され、「退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服」 (講談社現代新書)としてまとめられた「退却神経症」の概念とほぼ重なります。
 また、「無気力症候群」という用語も存在します。無気力症候群とは、「特定のことに対しての無気力・無関心などが続いている」状態で、無気力の対象は学生ならば学業、社会人ならば仕事といった「本業」になります。つまり、スチューデント・アパシーよりも少し拡大・一般化した概念です。その原因、病態が雑多なものを包含しているので、確かに「症候群」としてまとめるのが適切と思われます。
スチューデント・アパシー、無気力症候群の特徴には、次のような点が挙げられます。
・ 症状が無気力・無関心・無感動に限定
・ 本人は困っていない/病識がない
・ 特定の対象に対して無気力
・ 主体性がない、人格形成が未熟

 「症状が無気力・無関心・無感動に限定」:例えばうつ病であったら睡眠障害、食欲低下、意欲低下といった症状を伴いますが、スチューデント・アパシーでは夜も眠れる、問題なく食事はできますし、「学業」以外遊びに行ったり日常生活上での意欲低下は認められません。
 「本人は困っていない/病識がない」:このスチューデント・アパシー/無気力症候群の特徴です。本人が悩み、苦しんだり、焦ったりするとことがありません。
 「特定の対象に対して無気力」:上記のように、「学業」以外遊びに行ったり日常生活上での無気力は認められません。
 「主体性がない、人格形成が未熟」:これまで、親・先生が喜ぶから、言われたからやっている、だけで自主的に興味をもつことなく取組んできており、「自分で考えて行動しなさい」と言われて、何をすればよいか解らない状態です。勉強を単なるハイスコアを競うだけのゲームとして捉えてきた面もあるでしょう。

# 単なる「甘え」、うつ病とは異なる
 小さい時から、「勉強にやる気がなくて、遊んでばかりいる」のでしたら、確かに「甘え」でしょう。しかし、スチューデント・アパシー/無気力症候群ではむしろ、発症する前は「良い子」で、親や先生に言われた通りに勉強をするというケースが多いのです。多くの場合、大人からの評判も良く、それまでの成績も優秀です。そういう子がスチューデント・アパシーに陥りやすい傾向があります。
 また、「うつ病と異なる」というのは、前のパラグラフで述べたように、うつ病であったら睡眠障害、食欲低下、意欲低下といった症状を伴いますが、スチューデント・アパシーでは勉強に対して意欲が湧かない以外の点は問題を認めません。
 実際に、うつ病は「気分障害圏」に分類されますが、無気力症候群(退却神経症)は、「神経症圏」に分類されることが多いようです。

# どんな人がなりやすいでしょうか?
 スチューデント・アパシー/無気力症候群になりやすい人の特徴として、まず「勝ち負けに敏感」という点が指摘できるでしょう。自己の価値を勝敗や成績の優劣で評価する人は、良い結果を出しているうちは表面的な問題がマスクされています。しかし、他者と比べて自分が劣っているという結果に直面した時に、自分のアイデンティティが崩れてしまいます。自分の長所と思っている所でも他人より劣っているといった場合に、崩れていく結果に陥りやすいと思います。「敗ける」ことが受け入れられないなら、始めから棄権して、避けて通ろうとする発想です。
 次に、「完璧主義」も特徴的でしょう。失敗した時にアイデンティティが保てなくなるのは、上記と同じです。「失敗した場合にも、自分の価値は揺らがない」と思える人がレジリエントです。
 3番目に、「良い子」に多くみられるのは、前のパラグラフに述べた通りで、大人からの評判も良く、それまでの成績も優秀な子が多く発症する傾向にあります。

# その背景を考える
 上記の特徴でも述べたように、「良い子」を演じていて、自分のために頑張ったのではなく、親・先生の期待に応えるために頑張ってきた子に見られる傾向があります。自分で将来を考えたり、目標を定めたり、自分で考えて行動するのが苦手な傾向があります。
 高度成長期以前の社会でしたら、兄弟が何人もいて、下の子の世話は兄姉がやらないといけない状況があったり、学業も早々に切り上げて世間で働かないといけない、といった早期に自立を促す状況でした。今では、核家族化に伴い親も子供に手を掛け、また社会も豊かになった分何でも与えられる状況に変化しました。昔の子供は、原っぱに土管一つあれば自分達でどうやって遊ぶか工夫して生みだしていましたが、今の子供はゲームなど魅力的な出来合いのおもちゃが溢れ、自分で工夫する余地などありません。
 ですからこそ、レゴ等の種類のおもちゃが独自の存在価値を保っています。
 塾、学習塾、予備校に行っても、自分で考えだす暇はなく、さっさと先生の工夫を凝らした(?)教材が与えられ、それを暗記するだけといった状況に陥ります。
 こういった「自分で考えなくても良い」、社会にモノと情報の溢れる状況が加速されてきているのです。

 さて、こういったスチューデント・アパシー、五月病の学生はこれまでも一定の割合で認められました。受験勉強を終えて、これまで受験に合格する事が目標・ゴールだった学生が、改めて自分の目標、やりたいことをリセットするのですが、この状況についていけない学生が一定割合出ていました。高校時代は、自分のやりたいことをおぼろげにしか考えていなくて、入学後に改めて考えないといけない状況に向き合います。それでも昔は、哲学・宗教・文学などを論じ合える環境がまだありましたが、現代の学生気質にそんなものはありません。また、レジャーランド化した日本の大学では、遊んで・バイトに時間を費やして、社会に向き合うのを就職活動まで先延ばしにできる環境が整っています。大体、大学入学者枠の総合計の方が受験生の数が多いので、経営を考える大学はどんな学生でも来てもらって卒業させないといけない使命があります。卒業率が低いと、また文部省の監査で問題になります。

 元来日本は、農耕民族で村社会を形成してきました。村の中に溶け込むということは、「他人の価値観」で生きることにほかなりません。それでも、大家族の中で自立していかないと誰も助けてくれなかったり、口減らしに丁稚奉公に出されたり、中卒で就職したり、と早期に自立を促される環境にあってバランスが取れていたのかも知れません。

# ストレス社会のインパクト
  また、核家族化、少子化のため、コミュニケーション能力を鍛える機会が少なくなってきました。コミュニケーション能力が未熟なために、集団の中に入ってゆけず、人間関係もスムーズにゆかずに、ストレスを被るケースが増えてきているように思います。
 つまりは、本人側の自立できてない自尊心の低めの傾向に加えて、社会環境側としてストレスが高まった結果、「合わせて一本」(今度のルール改訂でなくなるようですが)みたいに症状が出てしまいます。

 何故、社会人に無気力症候群が増えてきたのか、と改めて考えてみますと、変化が加速化されこれまであった仕事が無くなってゆき、新しい仕事・過去に経験のない未知の状況に遭遇する機会が増えてきた為ではないかと思います。これまでは、やることを上司が指示してきて、それをこなしてさえいれば働いていることになり、会社もお給料を払ってくれていました。現代は、過去に経験のない仕事にチャレンジせざるを得ない状況が増えてきています。上司も経験がないので、指示をだすといっても「自分で考えろ」という事になってしまいます。従来の発想では「規格外」といえる場面や、業務が変化してゆく場面に直面して、自律的に行動できない、「自分が関心をもって仕事に取組めていない」ことを実感するケースが増えているように思います。
 同じ業務を10年経験してきた場合でも、つねに振りかえり、改善を重ねてきた人と、漫然と取組んできた人では、スキルもポテンシャルも異次元のものになってしまいます。「1万時間」の法則といっても、1万時間取組めば誰でも一流プロになれる訳でもありません。毎回振返り、改善を重ねられるのか、その仕事や取組んでいる事が好きなのか、それとも他人や世間に褒めてもらいたいからやっているだけなのか、取組み方が問われています。

今回のテーマは如何だったでしょうか?
皆さまの会社の経営、人材育成のヒントになれば幸いです。
今回も、最後まで目を通して頂き、感謝・感謝です。
なお、最後に参考までに 笠原嘉先生の提唱しておられる「アパシー・シンドロームの特徴」(1984年版)を引用しておきます。ご興味あられる方は、参考にされて下さい。

本年も1年間、みなさまには大変お世話になり、心より感謝申し上げます。
みなさまにとって、2017年が素晴らしい年になりますよう、祈念申し上げます。

【参考】
アパシー・シンドロームの特徴(笠原嘉,1984)

1.無気力・無関心・無感動があり、生き甲斐・目標・進路の喪失が自覚するだけである。神経症(精神障害)のように、不安・焦燥・抑うつ・苦悶・自責など自我異質的な体験を持たず、自発的な相談の来談動機に欠ける。

2.客観的行動は世界からの『退却・逃避』と表現される。苦痛な体験を内側に症状として形成することが殆どなく、もっぱら外に向けて行動化する。無気力・退却・裏切りといった陰性の行動化。

3.予期される敗北と屈辱からの回避として、本業(学業)からの退却が中心。

4.病前はむしろ適応が良すぎるほどの人である。しかし広い意味で強迫パーソナリティ(黒と白の二分法の完全主義・攻撃性と精力性の欠如が共通)

5.治療は成熟を促すための精神療法となるが、アイデンティティ形成の困難、心理社会的モラトリアムの不可欠さを十分理解する必要がある。(治療へのモチベーションがないことが最大の問題点)

6.症状と経過から少なくとも二類型を考えることができる。
(1)退却が軽度かつ短期で、ほとんど自力で回復してくるタイプ。
(2)ボーダーライン群と称するもので、一過的に対人恐怖、軽うつ、軽躁、混迷状態、関係被害妄想を呈する。(統合失調症への移行例はない)

7.いわゆる登校拒否症(現在の不登校)の中に、この病態の若年型を見出し得る。鑑別を必要とする類型としてはうつ状態と分裂気質(統合失調質)とがある。典型例においては鑑別は容易であるが、時に困難なケースで出会う。




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プロフィール

scaramouche

Author:scaramouche
I am an Executive coach, Consultant and Negotiator working in Tokyo, Japan. In charge with develop people, leadership management and motivation management, supporting president level, executive level and organization level.
Concurrently a visiting lecturer/researcher in Ohmae Kenichi School of Business.

After earning MD and PhD in medicine, I experienced medical practice as an anesthesiologist and ICU expert followed by scientific research work of molecular biology and molecular genetics. Following academic experiences, I joined to a global pharmaceutical company, and experienced Drug Discovery projects, Biomarker works in global Biomarker group, and Drug Development projects in the global context of drug development. Through my medical and business career, I have shown leadership involving internal and external stakeholders to create the value of projects.

Specialties: MBA (Business strategy, Marketing, and People Development), GLLC Certified Coach, JCA Certified Medical Coach, ABNLP Certified NLP practitioner, JNLPA Certified NLP practitioner, JSNS Certified Negotiation analyst, MD.Sc, PhD (Medical), Faculty Fellow of Pharmaceutical Medicine, Certification by the Training course of Biomedical Ethics and Law (Tokyo University).

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