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2017-03

何か足りないというときは、もっと足りないようにする

先ほど、NHKで、「SWITCHインタビュー達人たち 行定勲×宮本輝」を観ていました。正確にはチャンネルを変えていて、釘づけになってしまいました。
 30歳、デビュー作『泥の河』で第13回太宰治賞受賞された宮本 輝氏ですが、その時のエピソードを語っておられた、その本質的な凄さに打たれます。
 例えば、今日5枚書いた、で読み返してみたら何かものすごく大事なものが抜け落ちている、すると書き加える、ここも、あそこもと。そして、もう一度読み返すと、ますます離れていく。『泥の河』を書く前悩んでいたら、小説の師匠にしていた人が、僕が一生懸命書き加えたり、最初から大事にしていた書き出しとかを鉛筆でぴゃーっと全部消した。なにするんですか!と怒ったら、「ここからここを無しに書き始められたら、君は天才になれるんや」と言われた。けど、僕のお気に入りの7〜8行を勝手に消しやがってと腹立った。家に帰って、ふと夜中に師匠の言うとおり、そこをなかったものとして読み返したら、はるかに良かった。

“いかに削るか”。付け足していくのではない、書きたいものを書いてはいけない、“書かずに書く”。

金槌で釘を打つのも、力任せに打ったって釘は打てない、コンコンと金槌の重さを利用して打つ。こういうふうにして小説を書いていく。僕が最初に習ったのは、“取ってしまう”ということ。

何か足りないというときは、もっと足りないようにする。

 いや~ 凄い! こんな教えを受けて、更に書き足す行為は、「何も学んでないじゃないか!」と怒鳴られそうですが、「説明してはいけない!」。
 いくら説明しても、自分の考えている風景、世界を他人に追体験してもらうことはできません。本質を伝え、受け手が100人いれば100通りの受け取り方をして理解してもらい、尚且つ各々の人の受け取り方が一人一人「固有の」概念になっているのだが、本質は伝わっている。言い換えると(これがいけない!蛇足!!)、本質が各々の経験という衣をかぶって「現実」「経験」の中で理解されてゆく、とも言えるでしょう。
 未完成な形で伝えて、各々の中でその人の経験値で補完され、「その人に合った形」「その人にcustomize された形」完成されてゆく。未完成な形で伝えるゆえに、余計なものはそぎ落として、「(自分が)言いたいことは言わずに」伝えるには、伝え手の人間性・力量までもが問われます。

 能の舞台を思い起こさせてくれます。観る人が、その人の観方に従って、独自の世界を作りながら観ている。その為にも、「簡素」を通り越して、「未完成」な形で提示しているのです。表現している方は、「自分の描いた世界」「自分の価値観」を相手に押し付けることなく、相手が思い描いてくれた風景をそのまま受け入れ、その上で表現してゆくだけの「自由さ」であったり「許容量」が求められるでしょう。相手が思い描いている風景が、自分の伝えたいものとは異なっていても、敢えて許容するのです。
 元来、客観的な “fact” というものが、存在している訳ではありません。見る人各々の経験値に補完され、各々の中で形になって受けられてゆくのです。
 思いめぐらしてみると、2000年前にユリウス・カエサルが「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。 多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」と語っています。相手が「見たいと思う」形に見ている/理解しているのを許容するだけの力量が、語り手/伝え手には求められます。何かを語る、伝える evangelist の宿命とも言えるでしょう。
 もう一つ思いめぐらせてみると、アンデス地方原産の「トマト」は、乾燥した気候に順応していて、水分を採る為に細かい羽毛の様なひげ根が樹全体のあらゆる所に見られます。水を十分に摂取できない状況に置いて、自助努力を促す故に、甘くて素晴らしいトマトが得られるのです。

 今回は、「未完成の形で伝える」、本質以外の一切の夾雑物は削ぎ落とす、何か足りないというときはもっと足りないようにする、事により受け手の価値観で補完され伝わることを許容する勇気・胆力が表現者には必要ということを再認識させられます。
 人間は忘れる動物です。嫌な出来事を全部覚えていようものなら、不安神経症に悩まされることでしょう。それ故に、大切なことは、表現を変え、視点を変えながら時々思い出さなければならないということです。
 子育ても一緒だな~ と、つくづく思います。なかなか、本人が自己責任で、自分の足で立てるようになるには、親の価値観を押し付けることなく、本人の行動を受入れる必要があります。

今回は、如何でしたでしょうか?
伝わらない時には、説明してしまいそうになりますが、加えてはいけない削ぎ落とすことが求められる、という事でした。本質だけを不完全な形で伝え、相手の価値観で補完して頂く、いや~ 難しいですね。
自分の理解している概念は、自分の価値観の色眼鏡を通してできているので、そのまま相手に伝えようとはしてはいけない。相手の価値観で表現された姿を受け入れることが求められます。
また、一度能の舞台を観に行ってみないといけないですね~
今回も、最後までお読み頂き、有難うございました。
こうして、力不足ながらも blog が続けられるのは、皆さまのお蔭と、感謝・感謝です。



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プロフィール

scaramouche

Author:scaramouche
I am an Executive coach, Consultant and Negotiator working in Tokyo, Japan. In charge with develop people, leadership management and motivation management, supporting president level, executive level and organization level.
Concurrently a visiting lecturer/researcher in Ohmae Kenichi School of Business.

After earning MD and PhD in medicine, I experienced medical practice as an anesthesiologist and ICU expert followed by scientific research work of molecular biology and molecular genetics. Following academic experiences, I joined to a global pharmaceutical company, and experienced Drug Discovery projects, Biomarker works in global Biomarker group, and Drug Development projects in the global context of drug development. Through my medical and business career, I have shown leadership involving internal and external stakeholders to create the value of projects.

Specialties: MBA (Business strategy, Marketing, and People Development), GLLC Certified Coach, JCA Certified Medical Coach, ABNLP Certified NLP practitioner, JNLPA Certified NLP practitioner, JSNS Certified Negotiation analyst, MD.Sc, PhD (Medical), Faculty Fellow of Pharmaceutical Medicine, Certification by the Training course of Biomedical Ethics and Law (Tokyo University).

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