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2016-08

医療の2025年問題は、日本文化のパラダイムシフトを要求している

皆さんは医療の2025年問題というのをご存じでしょうか?

 2025年問題は、団塊の世代が後期高齢者75歳に達するタイミングで、医療費が跳ね上がることが予想されるわけです。日本人は、一生の医療費の半分を70歳以降で使います。厚生労働省が発表しているデータによると、日本人が一生涯で支払う医療費の総額は2,300万円となっています。その内訳は、70歳未満と70歳以上の医療費を見ると、おおよそ50%ずつになっています

生涯医療費

厚生労働省「平成25年度 年齢階級別一人あたり医療費」のデータによる

 少し脱線しますが、東京オリンピック後の10年は、20世紀のインフラが音をたてて崩れ落ちる10年になりそうです。新しいスタンダード、プラットフォームの構築が急がれます。例えば、NTTの2025年問題は、電話網(PSTN)の要となる交換機はすでに製造が停止されており、現存機器の寿命は長くてもあと10年という問題です。この「2025年問題」を避けるため、NTT はPSTNをIP(インターネットプロトコル)網に移行する構想を進めています。もちろん地上電話が必要か、ニーズが問われています。
 こういった場合には、新しいプラットフォームは「過去の延長線上」には存在しないものです。常識的な発想では問題解決につながらず、まったく新しい構想が求められるのが普通です。

# CureからCareへ、治療から予防へ
 医療費削減に向けて、これまでも「治療から予防へ」とパラダイムシフトを進めていました。我が国は「国民皆保険」制度を運用していますので、大病院に行くのも、町のクリニックにかかるのも、患者/国民が自由に選択している状況です。コストも基本的に同じです。アメリカは、民間保険会社が健康保険も運営しているために、入っている保険の種類/保険料によって、かかれる病院も決まっています。保健でカバーされない治療も出ています。医療側からみると、自分のスキルが保険会社に査定され、受け取る報酬が変わってきます。また、UKに代表されるヨーロッパの国々は、薄く政府管掌保健でカバーされており、受けられる医療が限定されています。それ以上、カバーされていない薬剤(一般的に高価な新薬)・医療費に関しては自費にするか、保険会社と契約して対応することとなります。
 お蔭で、専門家志向の強い日本人は、自分で判断して、その専門家を受診するという選択をされる方がとても多いと思います。医療以外でも、Specialist を高く評価し、Generalist は評価が低いという文化です。総合診療科という科もできましたが、医師側は幅広い知識と経験を求められ、自己研鑽も大変なのにもかかわらず、患者さんからは評価されず、「目途がついたら、専門の先生に回してほしい」と感謝されない言葉が返ってくることもしばしばのようです。
 こういった医療が安価に手軽に受けられる環境も手伝って、病気も重くなってから医者にかかればいい、という文化が変わることなく継続しているようにも思います。実際は、予防ができないからこそ、手軽に医療を受けられる福祉医療体制が採用されていると考えてもよりでしょう。

# 日本人は予防ができない国民性
 こういった背景から、日本人は疾患も進んで治療が避けられないという状態になってから、受診することが多いように思います。まだ症状の軽い内に対処していると、軽い対応で済んでいたにも関わらず、我慢する/放置する、「自分だけは大丈夫」という根拠のない自信に頼ってしまい、結果的に治療に手間と時間がかかってしまう場合が多いようです。
 こういう国民性から、なかなか「予防」が進んでいないのが現状です。健診の受診率をみても、会社は規制により100%のはずですが、国民健診だと50~60%台に下がり、がん検診に至っては、30%前後です。自身の健康を自分で管理できてなかったり、「自分だけは大丈夫」と考えてしまうのです。
 元来、農耕民族である日本人の辞書には、「リスク管理」という言葉が見当たりません。狩猟民族に比べて、農耕民族の方が生活も安定するという意味では、進化した文明です。しかし、risk management においては諸外国に比べレベルが低く、相変わらず情報漏えいやハッキングの被害が後を絶ちません。狩猟民族は、毎日安定して獲物を手に入れることができないため、必然的に「ぼうず」の日々が続いた時の対策をしておかねばならず、risk management のスキルも狩猟のスキルと同じ程度に重要視されています。
 農耕民族の場合、耕作量は見積もる必要がありますが、それ以上はリスク管理する必要がありません。こういった文化的背景から、飢饉にみられるように、日本人のリスク対策は「じっと耐え忍ぶ」ことです。

# 医者も弁護士も、危機に陥った時だけに必要とされる職業
 こういった、予防・リスク管理の時代に進むにも、大きな価値転換が求められることは理解できると思います。その上に、もう一つ壁があります。それば、医者・弁護士といった仕事が「ピンチの時だけ必要とされる」職業であって、毎日の日常生活の中で役割が求められていない、社会生活のプロセスから弾きだされている点です。
 医者も弁護士も、市民が危機に陥っている時に救いの手(?)を差し伸べることで、自らの付加価値を維持している側面もあります。日常生活に関わり、予防に尽力すること、体調の維持に力を貸すと、付加価値が下がる可能性もあるということです。
 実際、彼らは日常生活に関わらないが故に、患者・市民との交渉が苦手です。自分の言い値でできる商売しかしたことがありません、というかそれしかできないのです。実際の場面として、例えば高血圧症や糖尿病のような、痛くも・かゆくもない生活習慣病を想定してみましょう。患者さん相手に「検査の数値が悪くなっています、○○してください」と指示・命令を出します。患者さんは神妙に「ハイ」と言いますが、実際にはそんな命令に従ってはくれません。「自分だけはなんとかなる。大丈夫」という文化圏に生きているからで、医者の方が患者に行動を起こさせるだけのスキルを持っていないからです。
 これからの「治療から予防」のパラダイムシフトの時代、医者は市民生活の中に入っていって、彼らを理解し受け入れ、彼らに行動を起こさせるるだけのヒューマン・スキルを身につけてゆかねばならないのです。予防が機能すると、医療費が削減されるだけ、医師や医療関係者の収入も削減される結果になります。

 こうしてみてきたように、「治療から予防へ」とパラダイムシフトを進めるには、皆保健制度を見直すだけに留まらず、日本文化に「リスク管理」の概念を定着させ、医師や医療関係者にもヒューマン・スキルを身につけてもらい、常時社会生活に組み込まれる業種に変わっていってもらう必要があります。
 誰が見ても、市民にも医師にもパラダイムシフトが必要、とかなりハードルが高いと理解できます。
 一つ光明があるとすると、これから医療の世界にも急速にロボットとAIが導入されることでしょう。手術も含めて、現在のSpecialist の世界のは、ロボットとAIに置き換えらると考えられます。生身の医師が生き残れるスペースというと、この市民の日常生活に関わるヒューメインなアプローチになっていく可能性が高いでしょう。ロボットとAIによるドライブが、お尻に火をつけてくれるのではないかと、密かに期待しているのです。



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プロフィール

scaramouche

Author:scaramouche
I am an Executive coach, Consultant and Negotiator working in Tokyo, Japan. In charge with develop people, leadership management and motivation management, supporting president level, executive level and organization level.
Concurrently a visiting lecturer/researcher in Ohmae Kenichi School of Business.

After earning MD and PhD in medicine, I experienced medical practice as an anesthesiologist and ICU expert followed by scientific research work of molecular biology and molecular genetics. Following academic experiences, I joined to a global pharmaceutical company, and experienced Drug Discovery projects, Biomarker works in global Biomarker group, and Drug Development projects in the global context of drug development. Through my medical and business career, I have shown leadership involving internal and external stakeholders to create the value of projects.

Specialties: MBA (Business strategy, Marketing, and People Development), GLLC Certified Coach, JCA Certified Medical Coach, ABNLP Certified NLP practitioner, JNLPA Certified NLP practitioner, JSNS Certified Negotiation analyst, MD.Sc, PhD (Medical), Faculty Fellow of Pharmaceutical Medicine, Certification by the Training course of Biomedical Ethics and Law (Tokyo University).

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