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2014-02

もう「この道一筋30年」の時代ではない

 ソチ冬季オリンピックの話題にメディアも明け暮れている日々が幕を降ろしました。中でも、日本国中が「金メダル以上のものをもらった」と感動した女子フィギャスケート浅田真央選手のストーリーを今回のテーマに取り上げてみたいと思います。
 日本中の、そして世界中の人々の記憶に深く刻まれたように、浅田選手のFSの演技には、世界のトップスケーターや過去の名選手から称賛の言葉が数多く寄せられた素晴らしい内容でした。皇帝”エフゲニー・プルシェンコは「真央は素晴らしかった。トリプルアクセルは特に良かったよ。君は真の戦士だ」と、SPの精神的ダメージをひきずることなくトリプルアクセルを成功させた浅田を絶賛しています(*1)。
逆境を克服し、敢えて大きなリスクにチャレンジし、そして修羅場を乗り切る姿に日本中が共感しました。いかにも日本人が好むストーリーの体現でした。「この均一感が日本人だなー」と感じながら、私が今回のエピソードから学んだことは、改めて「もうこの道一筋30年の時代ではなくなった」ということでした。では、始めましょう。
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 まず、彼女の今季のリズムを狂わせたのは、シーズンを通じて成功確率の落ちた3A(トリプルアクセル)だったように思います。練習では飛べても、本番のプレッシャーのかかった状況では失敗することが散見されたようです。もっとも、私はスケートに関しては全くの素人ですし、また各試合を追って確認している訳ではありません。どちらかというとメディアを通して内容を見ているだけですので、事実確認が不十分のところをストーリーの辻つまを合わせて論理展開していると思って、事実確認の足りないところはお読み頂いている皆様の方でも補って頂ければと思います。
 女性は体操競技でのピークは10代後半です。これは、女性ホルモン分泌の影響で筋力が保てるのが10歳代までで、それ以上は相対的に筋力が落ち、体脂肪率が上昇します。この生理的な肉体の変化が、俊敏性が問われる体操競技に大きく影響しています。フィギャスケートでは、これまでは運動能力というよりも表現力中心の戦いでしたので、20歳前後~20歳代半ばにピークがあるように見えていますが、ジャンプの要求度が高まり、より運動能力が求められると体操競技同様に10歳代後半がピークになってもおかしくはないでしょう。
 それでは、筋力を維持して/衰えを最小限に止めて、表現力に磨きのかかる20歳代までピークを伸ばすにはどうすれば良いでしょうか。それには、陸上短距離で瞬発力を引き出すトレーニングとして注目された「深部筋」トレーニングが参考になるように思います。身体のブレをなくすので、「体幹トレーニング」とも呼ばれています。
 一方で、持久力の必要な陸上の中・長距離でのピークは20代後半から30歳頃です。瞬発力は red muscle によって担われており、持久力は white muscle が担っていますが、赤筋と白筋の割合は遺伝的に決まっています。両方に長じている人はおらず、生まれながらにしてどちらが得意かは決まっています。ジャンプのような瞬発力の要求度が高まると、red muscle の能力が高い選手が増えてくるのでしょう。因みに、この色の差はミオグロビンの含有量の差と考えられています。
 3Aの成功確率にはメンタル面の影響もあるのでしょうけれども、こういった基本的なトレーニング方法の進化を、他の競技の経験からもっと取り入れてゆく必要があったのではないかとも思います。フィギャスケートの試合でカメラが捉えているコーチ陣は、スケート界の指導者ばかりでした。バンクーバー後の4年間、「スケート技術を基本から見直した」というメッセージには、スケートに取り組む本気度が伝わってきますが、また他の競技の経験をもっと取り入れる余地があったのではないかとも伝わってきます。ここが、「この道一筋30年」のコーチ陣では見えてこない視点で、スポーツ界を通じて cross-functional な要素が求められる所と感じます。
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 次に、3A を含めて6種類のトリプル・ジャンプを全て取り入れた初めてのプログラムを考えてみたいと思います。
 再び陸上競技との比較で恐縮ですが、ジャンプや投てき競技の試技数は6回です。ピークにチャレンジする走り高跳びや棒高跳びも、5~6回目の試技でピークを持ってこれるようにプランを組みます。前半3回の試技の結果決勝進出が決まる走り幅跳びや投てき競技の場合、3回目までにピークをもってくるようにプランを組む選手で、決勝に進んで後半3回の試技で記録を伸ばせる選手はほとんどいません。
 今回、浅田選手はFSで8回のジャンプを跳んでいます。2A~3A までどの程度全力で跳ばなければならないのか、体力を消耗するのかは、素人の私には解らないのですが、直観として8回のジャンプ(9割以上の力を出さないときれいには跳べないように思います)を組むには持久力・体力をもっと鍛える必要があるように感じられました。試合後の浅田選手のインタビューでも、「後半はきつかった」という内容でコメントしていました。今回のプログラムは「集大成」と位置付けて、「6種のトリプルを全て飛ぶ」という女子フィギャの未登頂の領域にチャレンジしているのですが、準備状況に比べるととてもリスキーなチャレンジではなかったかと思います。
 逆境の中、このチャレンジングなプログラムに挑み、最後まで演じきった技術と精神力は素晴らしかったと思います。それだけに、大きなリスクにチャレンジして達成した姿から、観客と世界中に感動が伝わってきたのでしょう。
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 改めて今回の女子フィギャスケートから受けた印象は、「表現力」中心の競技から「技術力」の競技に完全に移行した、というものでした。リプニツカヤ選手が浅田選手のスケーティングを「きれい」とコメントしているように(*2)、現在も今後も表現力が重要な要素であることは勿論ですが。今回も、こういった時代の移り変わりの中で、フィギャ以外の経験と指導者を取り入れた足跡が感じられたら、また違ったチャレンジができたのではないでしょうか。
 こういった時代の変化に対して「この道一筋30年」といった過去の経験の延長ではもはや対応できないということを、改めて実感したように思います。現在のビジネスの世界でも、「多様化を取入れる」と言いながら、ほとんど実行に移せていないのが実情と感じています。こうやって、メディアを通じて国民に、そして世界中にインパクトを与える良いチャンスなのですから、集中的に投資して「次元の違うsuccess story」のお手本を示して欲しいものだと思います。
 具体的には、他競技の経験をもっと取入れて、core muscle や持久力を鍛えるプログラムを組み、三回転ジャンプも80%の力でも跳べる状況まで効率良く鍛え上げる周囲のサポートが欲しかったと思います。体操の白井選手は、一日6時間も8時間もトランポリンで練習し(心底好きだからこそできるのです)、4回転ひねりの新技「シライ」を完成させています。そうなると、「大きなリスクにチャレンジする」姿ではなく、憎たらしいまでに強い「横綱相撲」になってしまい、今回のようなインパクトは姿を消すのかも知れませんが、スポーツ選手の進化としては横綱相撲をとれるように鍛え上げるのが本来の姿ではないでしょうか。
 スポーツ選手は、自分で考え・判断する能力が養われる30歳頃(スポーツもビジネスでも同じです)には既に選手としてのピークを過ぎています。彼らが一流の選手に育つかどうかは、コーチとサポート体制が全てを決めているといっても過言ではないでしょう。レジェンド葛西選手は41歳と、自分自身で考え、判断してトレーニングしていると想像できますが、例外になるでしょう。
 「次元の違うsuccess story」のお手本を国民に示すのは、日本を成功に導くだけのインパクトを秘めています。「根性物語」や「波乱万丈の人生」ではなく、「難題を克服するアプローチ」のお手本を示せるのも、スポーツの大きな社会的意義と考えられますし、アベノミクス、第三の矢、と言っているよりも余程インパクトがあるように思います。


【参考】
(*1) プルシェンコがクワンが!真央のフリー演技に世界の名スケーターたちが感動
(*2) 【勝ち気】ユリア・リプニツカヤ語録

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プロフィール

scaramouche

Author:scaramouche
I am an Executive coach, Consultant and Negotiator working in Tokyo, Japan. In charge with develop people, leadership management and motivation management, supporting president level, executive level and organization level.
Concurrently a visiting lecturer/researcher in Ohmae Kenichi School of Business.

After earning MD and PhD in medicine, I experienced medical practice as an anesthesiologist and ICU expert followed by scientific research work of molecular biology and molecular genetics. Following academic experiences, I joined to a global pharmaceutical company, and experienced Drug Discovery projects, Biomarker works in global Biomarker group, and Drug Development projects in the global context of drug development. Through my medical and business career, I have shown leadership involving internal and external stakeholders to create the value of projects.

Specialties: MBA (Business strategy, Marketing, and People Development), GLLC Certified Coach, JCA Certified Medical Coach, ABNLP Certified NLP practitioner, JNLPA Certified NLP practitioner, JSNS Certified Negotiation analyst, MD.Sc, PhD (Medical), Faculty Fellow of Pharmaceutical Medicine, Certification by the Training course of Biomedical Ethics and Law (Tokyo University).

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