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2013-02

 「イギリスの大学・ニッポンの大学」- グローバル化時代の大学論 苅谷剛彦著 (公新書ラクレ)

 今回も、以前取り上げた「自由と規律」(池田 潔 著)に引き続いて、イギリスの教育を題材に「人材育成」の概念について考えてみたいと思います(*1)。著者の苅谷剛彦氏は、東京大学大学院教育学研究科修士課程を修了後、ノースウェスタン大学大学院博士課程を修了(Ph.D. 社会学)され、その後東京大学大学院教育学研究科教授を経て、2008年よりオックスフォード大学社会学科および現代日本研究所教授、セント・アントニーズ・カレッジ・フェローを勤めておられます。教育学者の目を通して日本、アメリカ、イギリスの教育と人材育成の長所・短所を見つめてこられ、鋭く本質を突いた、我々人財育成に関わる者にとっては貴重な視点を与えてくれる良書でした。
イギリスの大学・ニッポンの大学


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# グローバル化時代の高等教育とは
 学生も教員も多国籍であることが当然であり、そこに自国のみならず「世界の問題」をテーマとして取り扱うことが、大学の研究・教育の素地、資源となっています。日本の大学になくて、アメリカやオクスブリッジといったワールドクラスの大学にあるのが、「世界の問題」を直接議論し、知的に格闘する機会を持てることではないでしょうか。
 グローバルな問題を議論し、解決するために、世界中から優秀な教員と学生を集め、グローバルに貢献できる人材を育成することで、グローバル化の時代に「教育」を通じて貢献していると言えるのではないでしょうか。

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# チュートリアルを重んじる教育
 オクスフォードを特徴づけているのが、カレッジ(学寮)とそこで行われる「チュートリアル」と呼ばれている個別指導中心の教育です。
 チュートリアルは、学生2~3人に1人の教官がついて、毎週行われます。学生は、出された課題に対して一週間で何冊もの文献を読み、分析し、自分の考えをレポートにまとめて提出し、そのレポートについて教官と質疑・議論が行われます。日本の大学の教育は講義を聞く”teaching”が中心ですが、ここでは「自分で考える」ことが求められ、その読み書きを中心とした個別学習を通じて分析力や批判的思考力が育ってゆくと考えられています。
 伝統を通じて、多くを読んで書いて議論する”learning” が求められており、徹底して考えることが教育の中心に置かれているのです。
本書では、オクスフォードの教授達が語る大学教育の使命が次のように紹介されています。「高等教育とは、批判的な思考をリベラルな教育を通じて発展させることである」「(それは)どのような科目を通じてであれ、個人のコミュニケーションと批判の能力(統合・分析・表現)を発展させることである」と。「自由と規律」でも紹介しましたように、400年の伝統を経た経験と自信に裏付けられたイギリス人の教育理念が凝縮されてように感じます(*1)。そこには、左脳による分析能力・問題解決能力と、右脳による相手を理解するコミュニケーション能力のバランスが表現されていますが、私も全く同感でした。コミュニケーション能力、特に相手とその感情を理解する力は、コーチングを仕事としてトレーニングを重ねているプロコーチにとっても容易ならざる領域であると日々実感致します。経験とトレーニングを重ねれば重ねるほどに、ますますその難しさと奥深さが理解できてきます。イギリス人の対人能力は、己の特権に対して社会貢献で報いる noblesse oblige の概念をパブリックスクールや家庭の教育で叩きこまれてきたことが土台になっているのではないかと思われます。
 さて、ここでもう一点言及しておきたいのは、「リベラルな教育」についてです(*2)。ここに高等教育を職業訓練と差別化するコンセプトがあるように思えます。どの職業についても、その実践を支える知識をupdate できる実践家を育てる、自分で考え、仮説・検証し、自己学習能力をもち、その結果現在の知識・情報に改定を加えて未来へと継承することに貢献できる実践家を育てることがその使命にあるのではないでしょうか。

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 本書を通じて最も感動したのは、必要な所に必要な投資(決してコストではありません)と労力が配分されている、チュートリアルを始めとしたシステムでした。私の周囲をみても、教育の場であれ企業であれ、目標や理念の段階では熱っぽく語られていても、それを実践に移すための具体的な方法やリソース配分という問題になるとほとんど上手く機能していない状況にしばしば遭遇します。箱モノばかりにリソースが配分される、といった人材育成を考えていない状況も長く続いていました。「変えよう」というチャレンジをサボってきた結果とも思います。
 今、何が必要か、何が重要か、と改めて考えさせられるオクスフォードのシステムでした。大多数の人間は変わらないものであり、イギリスでもここまで来るのに長い年月を必要としたのでしょう。しかし今の時代だからこそ、「変えることのできるものを変える」勇気とチャレンジのために、お役にたてればと思います。


【参考】
*1 自由と規律―イギリスの学校生活  池田 潔【著】(岩波新書)
http://shibatacoaching.blog.fc2.com/blog-entry-37.html

*2 liberal : 進歩主義者、改革主義者





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scaramouche

Author:scaramouche
I am an Executive coach, Consultant and Negotiator working in Tokyo, Japan. In charge with develop people, leadership management and motivation management, supporting president level, executive level and organization level.
Concurrently a visiting lecturer/researcher in Ohmae Kenichi School of Business.

After earning MD and PhD in medicine, I experienced medical practice as an anesthesiologist and ICU expert followed by scientific research work of molecular biology and molecular genetics. Following academic experiences, I joined to a global pharmaceutical company, and experienced Drug Discovery projects, Biomarker works in global Biomarker group, and Drug Development projects in the global context of drug development. Through my medical and business career, I have shown leadership involving internal and external stakeholders to create the value of projects.

Specialties: MBA (Business strategy, Marketing, and People Development), GLLC Certified Coach, JCA Certified Medical Coach, ABNLP Certified NLP practitioner, JNLPA Certified NLP practitioner, JSNS Certified Negotiation analyst, MD.Sc, PhD (Medical), Faculty Fellow of Pharmaceutical Medicine, Certification by the Training course of Biomedical Ethics and Law (Tokyo University).

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