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2012-03

大学院改革、キャリアプランにおける大学・大学院の意義とは?

2012年3月7日の日経新聞の記事「大学院改革、修士論文は本当に不要か」(電子版だけなのかも知れません)をTwitterとFacebook に投稿したところ、ディスカッションを頂戴しましたので、改めて考えるきっかけが生まれました。コメントを頂戴した皆さま、個人情報の関係でお名前までは書けないですが、有難うございました。また、いつも眼を通して頂いている皆さま心より感謝申し上げます。
 記事の内容は、「文部科学省は来年度から、博士課程に進む大学院生には修士論文を不要とする制度改正を実施する。大学院の早い段階から研究テーマを絞り込むのを防ぎ、広い視野を持つ人材を育てるのが狙いで、論文の代わりに筆記試験を課す」というものでした。
日経記事
 修士論文にしても、一般の学術雑誌に投稿する原著論文・レビューにしても、自分の研究しているテーマを深く理解するには、これまでの歴史的な背景を整理・理解し、その時点で未知の内容で、価値が高い点を問題発見し、仮説を立て、検証してゆく、というプロセスを踏みます。このプロセスは、「筆記試験」では決して体験できない内容です。また社会に出て必要な能力は何かというと、筆記試験のような与えられた問題に答えるのではなく、「問題発見」「仮説思考」のように自分で問題を創り出し、明確化して実際に解決してゆく能力です。制度改正に関わっている文部省の方々もこの点は理解しておられるでしょう。もし、この点が理解できていないようでしたら、公務員試験は、企業における社会経験がなければ受験資格がないような制度改革が必要なのではないでしょうか。
 本題から少し脱線しますが、学校の教員や中央官僚の人材には、「社会経験」が必須と私は考えています。日本人は、イベントがゴールのように勘違いしている文化があるように感じます。大学では、入学するのが最大のイベントで、卒業するまでレジャーランド化していたり、卒業や資格も獲得して「スタートラインに立つ」のであって、卒業や資格が実力を保障するものではありません。実際に、卒業時の成績と実社会に出てからのパフォーマンスは何の相関もないと思います、学生時代いかに優秀であってもそれは社会に出て良い成果を生む保障にも何にもなっていません。
 
 話題を戻しましょう。記事対するコメントの中に、「一分野に注力し視野が狭いとあるが、優秀な大学院生は誰に言われずとも幅広く情報収集をしている。制度ばかりを改善しても肝心の学生の意識が変わらなければ、結局学生たちは「何もせずとも学校が教えてくれる」状況に身を投じることになる」という京都の20代女性からの投稿がありました。制度ばかりをあ~でもない、こ~でもないと変更しても、人間の「意識」「取組む姿勢」「興味・関心」が変わらなければ何の改善にもならない、と本質をついた鋭いご意見でした。
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 では、大学卒/学士 Bachelor, 修士 Master, 博士 Doctorとは、それぞれどのような区切りを言うのでしょうか?

 学士は、海外でその定義が明らかなように大学4年間は「教養課程」です。人間としての素養を身につけるところです。日本の大学は、教養過程2年、専門課程2年などと促成栽培を目指しています。特に、医学部の中には、1年次の最初から専門の講義を始めて、5年間で全部教えることは完了して、6年次は国家試験対策、などというところもあります。教える方が、専門教育とはspecialist を育てることであり、専門知識を詰め込めばspecialist が育成できる、としか考えていない姿が伝わってきます。そんな教師に教わった生徒こそ、良い迷惑なのではないかと考えさせられてしまいます。
 これらのプログラムは、すべて「教師が学生に教える」というコンセプトで作られているところが時代遅れで、問題があるように感じます。では、何故この旧態依然とした方式が続いているのでしょうか?「前例を踏襲する」という博物館行きの文化もあるでしょう、何と言っても教える方が手間がかからないからではないでしょうか。要は、教師は、時代の変化を理解する努力もせず、改善を繰り返す努力を放棄しているとしか思えません。
 本来大学4年間は、Liberal Arts に浸り、自分自身を見つめ、人間を社会を見つめる時間であって欲しいと、私などは思います。Liberal Arts の言葉の源をたどると、古代ギリシャ時代に自由人とは、同時に「非奴隷」であることも意味していました。即ち、Liberal Arts とは「自由人の諸技術」を学ぶことであり、ローマ時代の末期の5世紀後半から6世紀にかけて、7つの科目からなる「自由七科」(septem artes liberales)として正式に定義されるに至ったようです。この7科は、文法学、論理学、修辞学、幾何学、算術、天文学、音楽といった構成になっています。レオナルド・ダ・ビンチの世界を見ているようで、Liberal Arts 抜きにして「創造性豊かな人材」など期待できないと納得させられてしまいます。
 逆に、こういったLiberal Arts を軽視して、人間や社会の理解に乏しい人材を生み出している日本の教育や環境は、とても「豊か」で「Happiness」の社会には感じられません。現在の学問体系も、これらのLiberal Arts を備えるgeneralist で、それぞれの専門分野が、それぞれの現象面を通じて深堀されていったものと実感します。やはり、ものの起源をたどるって、多くの発見がありますネ。
 「経済は文化のしもべである」と語ったのは、直島アートプロジェクトを推進しておられるベネッセコーポレーションの福武總一郎会長でしたが、本質をついた名言と思います。
ベネッセコーポレーション福武總一郎会長記事
 人は、「自然に学び、歴史に学び、古典に学ぶ」もの、というのが私の持論です。
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 次に、修士課程と博士課程は、それぞれ、前期・後期博士課程と呼ばれるように、2+3年の5年間でヒトまとめと考えてよいでしょう。博士課程では一つの専門分野を深堀してゆくspecialistの世界です。深堀するメリットとは、本質を見て、感じる体験をする事に尽きるでしょう。物事の本質を理解できるようになると、他の分野でも「本質的な流れ」を直感的に判断できる素養を養えることにつながります。物事の本質的な流れは、分野・領域を越えて普遍的でさえあるものです。化学と生物、歴史と物理などといった異なる分野に、同じ本質的な流れを感じ取れる瞬間に遭遇します。
 囲碁のことわざにも、「取ろう取ろうは、取られの元」「大場より急場」などと人生哲学に通じるものが多々あります。二線の生き死にの諺に「六死八生」というのがあるのですが、都内の私鉄の始発駅で乗車に二列に並んでいて、「6人目までに入っていると座れるのですが、8人目だと座れない」とこんな所にまで囲碁の格言は通じているか、と驚いたことがありました。
 社会においても、経営層・取締役クラスになると、勘で判断しています。事実を一つ一つチェックして論理的に組み立てている訳ではありません。彼らが自社の事業と、新しいビジネスを取りこむにあたって、その内容を微に入り細に入り理解してはいません。かつて、物事の本質的な流れを理解する所まで、物事に取り組んだり、考え抜いた経験がこのような、「何かおかしい」「これは行けそうだ」と判断する「勘」の源泉になっています。
 修士課程を大学4年間と混ぜこぜにしてはいけません。修士以降(博士課程)は、物事の本質を追究するspecialist の世界なのです。
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 修士・博士の更に上にprofessional の世界があります。
 想定外の変化が当たり前の21世紀のビジネス環境において、第一線に立って、価値創造・価値提供を続けるのがprofessional です。専門性や資格をもっているのが professional ではありません、それはspecialist と呼んでいます。professionalにとっては、specialty は道具であって、目的ではありません。専門性そのものが目的になっている人は、specialist 止まりです。
高橋俊介先生の定義では、「高度な専門性を活用し、個別性が高い問題に対して第一線で創造的に価値を生み出す職業。クライアントの意向のみを重視する、きわめて独自性の高い職業団体や職業集団」と述べておられます。
 例えば、高い専門性で一人一人の患者さんの心身健康上の問題を解決する医師はプロフェッショナルといえるでしょう(※)。モノを提供するのではなく、「個々の事例に対してsolution を提供する」ということです。いかに質の高いsolution を提供できるかは、specialty を獲得した後、現場で活用してみることによってしか鍛えあげることはできません。ですから、卒業・資格の獲得は「スタート」であって、「ゴール」ではないのです。
 アカデミアの先生方も、このような社会の変化を感じ取ってもらい、我々のようなビジネスプロと積極的にコミュニケーションすることで、社会に通じる人材育成に取組んで頂ければと考えております。学問の為の学問も重要ですが、社会発展のためにも応用科学 Applied Science も必要です。そこで活躍できる人材を輩出するのも、社会の中において大学・アカデミアに期待される役割と強調して筆を置きたいと思います。



※ 余談ですが、現実には「病気を治そう」とする医師が多いと感じます。Customized solution を提供するには、その方の置かれた個人的・社会的状況なども理解してこそtrue customized solution が提供できます。「小医は病を治し、 中医は人を治し、 大医は国を治す」と言われますが、病気を治すだけではprofessional とは言い難いでしょうか。一人一人の現場の医師に、「国を治せ」とは申しませんが、「患者さんを全人格的に捉え、更にその向こうに患者さんの家族や属している社会集団といったstakeholder まで見透しながら、患者さんにsolution 提供できる」そんな医師であって欲しい、と元臨床医の私としては考えています。
 余談の余談、私も現在このように考え、感じられるのは、純サイエンスやビジネスを経験し、コーチングを通して人に向かい合う経験を積み重ねてきたからです。もし、患者さんを診る仕事に戻れば、また次元の違う経験ができるのではないか、とは思いますね。


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プロフィール

scaramouche

Author:scaramouche
I am an Executive coach, Consultant and Negotiator working in Tokyo, Japan. In charge with develop people, leadership management and motivation management, supporting president level, executive level and organization level.
Concurrently a visiting lecturer/researcher in Ohmae Kenichi School of Business.

After earning MD and PhD in medicine, I experienced medical practice as an anesthesiologist and ICU expert followed by scientific research work of molecular biology and molecular genetics. Following academic experiences, I joined to a global pharmaceutical company, and experienced Drug Discovery projects, Biomarker works in global Biomarker group, and Drug Development projects in the global context of drug development. Through my medical and business career, I have shown leadership involving internal and external stakeholders to create the value of projects.

Specialties: MBA (Business strategy, Marketing, and People Development), GLLC Certified Coach, JCA Certified Medical Coach, ABNLP Certified NLP practitioner, JNLPA Certified NLP practitioner, JSNS Certified Negotiation analyst, MD.Sc, PhD (Medical), Faculty Fellow of Pharmaceutical Medicine, Certification by the Training course of Biomedical Ethics and Law (Tokyo University).

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